ZIPを展開したら、まず index.html を開きます。そこから topology.yaml のインポート、事前チェック、合否判定へ進みます。
月曜の朝、08:48。別棟側の窓口から内線が入る。
「別棟の旧ラボと倉庫の端末から、本社の業務サーバが開けないんです。研究所側の端末からは普段どおり開けていると聞いています。手元の作業は紙の控えで回してますが、別棟側の状況を見てもらえますか」
受話器を置くと、横で瀬戸が同じメモを覗き込んでいる。研修担当の氷室が斜め向かいの席で、湯気の立つマグを置いたところだ。
「別棟だけ繋がらないって、週末にルータ交換しましたよね? もう原因はそれですよね、別棟側に『週末の交換が原因です』って返しちゃっていいんじゃないですか」と瀬戸が言う。
氷室の動きが止まる。


週末にルータを交換した、と、交換が原因、は別の話
「はぁ? なんでそうなるのよ」と氷室。「あんた、申告のどこに『交換が原因です』って書いてあるの。別棟だけ繋がらない、研究所側からは届いている、でしょ。それと『週末の交換が原因』、別の話なんだけど」
「あ…たしかに、申告自体は『別棟側だけ繋がらない』までしか言ってないです」と瀬戸。
「いい? 別棟だけ繋がらない、は事実。週末交換が原因、は仮説。勝手に混ぜない」と氷室は赤ペンの先で瀬戸のメモを指す。「週末にルータが交換されたのも事実よ。だけど、その交換が今回の止まり方を引き起こしているかは、まだ手元の観測がひとつも支えていないでしょ。混ぜたまま別棟側に『交換のせいです』と返したら、別棟が止まる理由を観測する手が、最初から消えるの。原因に紐づけた言い切りを先に渡すと、相手は『じゃあ戻せばいいのか』としか思えなくなる」
「でも、交換した翌朝に止まってるんだから、交換が原因って書いていいんじゃないですか?」と瀬戸。
「ちょっと、今の本気で言ってる?」氷室は赤ペンのキャップを音を立てて閉じる。「翌朝に止まった、は時系列の事実。それが原因だった、はまだ仮説。両方とも書いていいけど、欄を分けなさい。混ぜると、観測で支えてない判断が走り出すの」
「つまり、『別棟だけ繋がらない』と『週末にルータが交換された』は別の欄に置いて、その二つを原因として紐づけるのは、観測がそろってから、ってことですか?」
「やっと観測から言える範囲に戻ってきたわね」
いま机に並んでいるのは、別棟だけ届かない、と、本社側の物理は生きている
あなたは紙の上にいったん、いま見えている事実だけを並べ直す。
別棟の旧ラボ端末から本社の業務サーバへ ping を投げると、3 回投げて 3 回とも応答なしで戻ってこない。倉庫端末からも同じ宛先に ping を投げると、こちらも 3 回とも応答なし。続いて、別棟側ではなく研究所端末から同じ業務サーバへ ping を投げてもらうと、こちらは普通に往復してくる。同じ本社側の業務サーバへの通信なのに、別棟側からだけ届かず、研究所側からは届いている。
本社側に置かれた、交換後の新筐体側も覗いてみる。show ip interface brief を投げると、本社側の各回線収容口は、いずれも link/protocol up。物理的にもプロトコル的にも、回線そのものは切れていない。
「えっと…別棟側からだけ届かなくて、研究所側からは届いてて、本社側の物理は切れてない、ってことですか」と瀬戸が小声で言う。
氷室は無言でうなずく。「そこまでは事実。なぜ別棟側からだけ届かないかは、まだ手元の材料からは言えない。だけど、同じ本社宛で、届いている方角と届いていない方角が分かれている、は今の手元にある、いちばん効いている材料よ」
別棟側に先に短く戻す
別棟側の窓口は業務影響を聞きたがっている。氷室への初報補足を出す前に、先に別棟側へは短く返しておく。
「別棟の人に、本社側のリンクが up だってことを伝えた方が、ちゃんと調べてますって伝わって安心しますよね?」と瀬戸。
「ちょっと、今の本気で言ってる?」と氷室。「あんた、別棟の人がリンクの up/down を見て何を判断できると思ってるわけ?」
「えっと…別棟の人は、業務サーバを開きたいだけ、です」
「そう。先方が判断に使えるのは、影響、いま業務をどう回しているか、復旧の見込みがどこまで言えて、次にいつ連絡が来るか。これだけよ。観測の細部を渡すと、相手は読む情報量に対して何を待てばいいか分からなくなる」
「つまり、影響、すでに取られている暫定運用、復旧見込みの扱い、次回更新の四つだけ、ってことですか?」
「観測の方向と並びが、ようやく合ってきたわね」
別棟側はすでに「手元の作業を紙の控えで回している」と言っている。これはこちらが許可した暫定運用ではなく、先方の現状として扱う。別棟側へ返すのは、この現状を踏まえた短い共有だ。
別棟の旧ラボと倉庫から本社の業務サーバへ届かない事象を確認しています。研究所側は通常どおり通信できているため、別棟側のみの影響として、すでにご対応いただいている紙の控えでの暫定運用を継続いただきつつ、復旧見込みは確認が進んだ時点で次回更新としてお伝えします。
復旧見込みの時刻はまだ出していない。出せる根拠が手元に無いからだ。
氷室へ見せる初報補足の五つの欄
ここからが、今回まとめる主成果物だ。氷室は別棟側向けの文章の添削者ではなく、次に誰を動かすか、原理面で叩き返してくる相手として座っている。
紙の上で、欄を五つに分ける。
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利用者向け共有
別棟側窓口へ返した内容と、復旧見込みは次回更新で扱う旨。手元の作業を紙の控えで回している、という先方の現状もここに残す。
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影響と現在の課題
別棟の旧ラボと倉庫から、本社の業務サーバへ届かない。研究所側からは同じ宛先へ届いている。本社側に置かれた新筐体の各回線収容口は link/protocol up。先方の現状として、紙の控えでの暫定運用あり。優先したい課題は、なぜ別棟側からだけ届かないかを言える材料を、本社側で取りに行くこと。
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ここまでの観測
- 別棟の旧ラボ端末から本社業務サーバへの ping は、3 回中 3 回とも応答なし。
- 倉庫端末から同じ宛先への ping も、3 回中 3 回とも応答なし。
- 研究所端末から同じ宛先への ping は、普通に往復している。全社的な障害ではない。
- 本社側に置かれた交換後の新筐体は、各回線収容口が link/protocol up。物理停止ではなさそう。
- 週末に本社境界ルータが新筐体に交換されたという運用カレンダー上の事実はある。ただし、これと今回の止まり方の因果は、現時点で観測が支えていない。
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次に確認すること
本社側に置かれた新筐体側で、別棟側の対象セグメントを、どう扱うことになっているかを確かめる。届いている方角と届いていない方角を分けているのは、本社側で別棟側の対象セグメントが扱われているかどうかにありそうだ、というところまでは観測が示している。本社側で、別棟側の対象セグメントがどう扱われる設定になっているかを並べてから、次の判断に進む。
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判断が必要な条件
- 本社側で別棟側の対象セグメントの扱いに差が見えた場合、変更条件と切り戻し条件を整えてから次の検証へ進めるかを氷室と相談する。
- 影響が別棟以外へ広がる場合、または本社業務全体へ波及する場合は、部門責任者へ上げる。
- 復旧見込みは、本社側での扱いの確認結果が出た時点で別棟側窓口へ更新する。
「『交換が原因です』って書いた方が、氷室さん的に親切じゃないですか?」と瀬戸が紙を覗き込む。
「書きたくなるのは分かる」と氷室。「だけど、観測が支持していない名前を欄に入れると、その名前に合わせて後の判断が引っ張られるの。週末に交換があった、は『ここまでの観測』に置いていい時系列の事実。ただし、それを今回の止まり方の原因として紐づけるのは、本社側で別棟側の対象セグメントがどう扱われているかを並べてから書いて」
書いていないことのほうから確認する
五つの欄を、書いてあるものではなく、書いていないもののほうから見直す。氷室に渡す前のチェックだ。
書いていないこと、ひとつ。原因の名前。別棟側からだけ届かない状況を起こしうる仕組みは複数残っている。手元の観測だけでは、そのうちのどれかには絞れていない。
書いていないこと、ふたつ。修正の手順。本社側で何を変えるか、戻すならどう戻すか、どこで確認するかは、別棟側の対象セグメントが本社側でどう扱われているかが見えてからの話だ。順番を入れ替えると、検証材料が手元に残らない。
書いていないこと、みっつ。復旧見込みの時刻。「何時までに直します」を書いていない。本社側での扱いが見えていない段階で時刻を約束すると、その時刻になって何も言えなかった場合、別棟側にもう一度訂正の連絡を入れることになる。
書いていないこと、よっつ。週末交換を原因として伝える言い切り。「週末に交換したせいで別棟が止まっています」「とりあえず元の筐体に戻します」のような書き方は入れていない。週末に交換があったという時系列の事実は残しているが、『次に確認すること』の前提として交換を原因に昇格させてはいない。観測で支える前に交換イベントを犯人に置くと、戻し作業に判断が引っ張られるし、別棟側の対象セグメントを本社側がどう扱っているかを観測する手が緩んでしまう。


次の確認は、本社側で別棟側の対象セグメントがどう扱われているかを並べることから
ここまで来ると、初報補足の整理としてはひとまず形になる。別棟側には先に短く戻し、氷室には次の動きを決める五つの欄を渡せる状態だ。
残っているのは、「別棟側からだけ届かない」を、本社側で別棟側の対象セグメントがどう扱われているかとして並べるところだ。
「先に新筐体を交換前のものに戻してもらえば、いったん直りそうじゃないですか? それでだめなら本社側でいろいろ見直す、で」と瀬戸が言ってしまう。
氷室の赤ペンが机を一度叩く。「あんた、原因が分からないまま、本社の境界の筐体を戻すって言ってるの? 戻したあとで同じことが起きても、別棟側からだけ届かなかった理由を観測する材料が、手元から全部消えるのよ。それに、いま手元にあるいちばん効いている材料は、同じ本社宛で、届いている方角と届いていない方角が分かれていることなの。そっちを生かしたまま、本社側で別棟側の対象セグメントがどう扱われているかを並べるのが先」
「えっと…先に戻すと、別棟側からだけ届かなかった理由を観測する手も消えちゃう、です」
「だから、まず、本社側に置かれた新筐体側で、別棟側の対象セグメントがどう扱われることになっているかを並べるの。届いている研究所側と届いていない別棟側の差が、本社側のどこで分かれているか、それを観測で重ねてからじゃないと、欄のどこにも書き足せない。先に並べてから、必要なら触る」
「つまり、本社側で別棟側の対象セグメントがどう扱われているかを並べて、届いている方角と届いていない方角の差を本社側のどこで作っているかを確かめてから、変更を考える、ってことですか?」
「段差を混ぜずに分けられたなら、続けていい」
机の上に並んだのは、別棟側からの ping 失敗、研究所側からの ping 成功、本社側に置かれた新筐体の各回線収容口の link/protocol up、週末に交換があったという時系列の事実。氷室に渡す欄は五つに分かれた。別棟側への返事は短く済んでいる。
通信は一部が通っている。同じ本社宛で、別棟側からだけが届かないまま止まっている。なぜそこで分かれているかは、本社側で別棟側の対象セグメントがどう扱われているかを並べてからでないと、欄のどこにも書き足せない。次に取りに行くのは、その本社側での扱いだ。