Cisco の router に向かって show ip route を打つと、左端に小さな文字が並ぶ。
C は直接つながっている経路、S は静的に置いた経路。先に扱った距離だけで測るプロトコルなら R が見え、全員で地図を持ち寄るプロトコルを見たあとは、O も読めるようになった。
そこに、ある日 D が混ざる。知っている文字の列に、知らない一文字が入るだけで、経路表の景色が少し変わる。距離だけでは足りない。けれど、全員が同じ情報を持ち続ける設計も、運用によっては重い。その間に、別の選び方はあるのだろうか。


EIGRP は distance vector の系譜にありながら DUAL を持ち、全員で同じ情報を共有しなくても loop-free な経路を常時保つための設計として読める。
distance vector と link state の中央に EIGRP を置く
経路表の左端にある source code は、経路がどこから来たかを短く示す。D は、EIGRP が学習した経路を示す文字だ。この一文字だけで、この router では RIP でも OSPF でもない IGP が動いていると観察できる。
この D は、まったく新しい箱を突然開けるようなプロトコルではない。両極の特徴を両側に見据えて、中央に立つように設計されている。
片方の側に立つ RIP のような distance vector は、隣から届く距離の情報を使って経路を選ぶ。全員が同じ全体像を持つ必要はないので素朴で軽い。けれど、各 router がそれぞれのタイミングで距離を更新すると、変化の途中で古い情報が残り、経路が一時的に回り込む代償がある。
もう片方の側に立つ OSPF のような link state は、リンクの状態を持ち寄り、同じ管理範囲の中で全体像をそろえてから計算する。経路の判断は厳密になり、どのリンクがどうつながっているかを共有したうえで選べる。ただし、その厳密さは全員が同じ情報を同期し続ける重さを前提にする。
RFC 7868 によれば、EIGRP の骨格は distance vector technology に基づく。分類の中心は link state ではなく distance vector にある。Cisco の説明で advanced distance vector や hybrid と呼ばれるのも、別分類へ逃げた名前ではない。distance vector の軽さを保ちながら、安全性に工夫を入れた設計だと読むと分かりやすい。RIP の単純な上位版でも OSPF の軽量版でもなく、両者の中央に EIGRP がある。
EIGRP は DUAL でループのない状態を保つ
EIGRP が distance vector の系譜にあると分かると、RIP で気になった一時的な回り込みはここでも起きるのではないか、という不安が出る。距離の情報を隣から受け取るなら、経路が変わる途中で古い情報を信じてしまわないのか。
その不安に対する答えが DUAL(Diffusing Update Algorithm)だ。RFC 7868 は、DUAL が topology の変化中や再収束中も含めて、構築される経路を常に loop-free に保つと説明している。計算が終わったあとだけ安全なのではなく、変化の途中も安全性を保つように設計されている。
もう一つの違いは、変化に関係する部分だけが再計算に参加することだ。全員が同じ情報を持ち直す必要はなく、各 router がばらばらに距離を更新するわけでもない。影響を受けた範囲のノードだけで協調して計算し、経路が回り込まない状態を保つ。
だから EIGRP は、distance vector の軽さを残しながら、隣から距離を聞くだけの不安をそのまま抱えない。show ip route の出力に D の経路が並ぶとき、その裏側では DUAL が経路の安全性を支えている。
topology テーブルに Successor と Feasible Successor が並ぶ
show ip route の出力にある D は、実際に転送へ使われている経路を示す。では、EIGRP はほかの候補をどの画面に載せているのか。そこで観察する画面が show ip eigrp topology だ。


topology テーブルには、同じ宛先に対して複数の候補が並ぶことがある。実際に採用されている経路を Successor と呼ぶ。条件を満たし、予備の候補として登録できる経路を Feasible Successor と呼ぶ。
この画面があると、EIGRP の性格が観察しやすくなる。ルーティングテーブルには採用された結果が出る。topology テーブルには、EIGRP がどの候補を採用し、どの候補を予備として扱えるのかが並ぶ。全員で地図を共有しない代わりに、採用と予備を同じ視界の中に持つ設計だ。
Feasible Successor として登録できるかどうかには、ループのない状態を保つための条件がある。本話ではその判定へ踏み込まず、show ip route と show ip eigrp topology の二つを並べれば、採用と予備の関係を読み始められると覚えておく。
EIGRP は distance vector の系譜にいながら、隣との関係が土台になる
冒頭の D はただの見慣れない文字ではない。Cisco 環境で show ip route を打ち、source code に D が見えたら、EIGRP が転送に使う経路を選んでいると読める。同じ宛先に対して show ip eigrp topology を見ると、Successor と Feasible Successor が同じ topology テーブルの中に並ぶ。
RIP だけを知っていると distance vector は不安定なものとして止まり、OSPF だけを知っていると全員で同じ地図をそろえる設計以外が見えにくい。EIGRP を知ると、同じ管理範囲の中で軽さと安定性のどこに妥協点を置くかという形で、IGP の選び方を説明できる。
距離だけで素朴に測る限界と、リンクの状態を全員で共有する重さ。EIGRP はその両極の中間に立ち、distance vector の系譜にありながら DUAL という安全弁を持つ。隣の話を組み合わせるだけで地図を描く設計だからこそ、どの相手を隣として扱えるのかという関係そのものが土台になる。その関係はどうやって成立するのか、次の景色はそこから始まる。