地図のここ
前回の地図を覚えているだろうか。PCからWiFi/LANケーブルを通り、ルーターへと抜ける最初の区間だ。
この区間で、データは何をしているのか。PCの中にある0と1は、具体的にどうやって外の世界へ出ていくのだろう。
データは物理的にどうやって動いてるの?


0と1だけでは動けない
PCの中のデータは、全部 0と1 でできている。テキストも、画像も、動画も。YouTubeへのリクエストも、中身は0と1の羅列だ。
しかし、0と1は「情報」であって「物」ではない。そのままではケーブルの上を走れないし、空中を飛べない。相手に届けるには、物理的な 信号 に変換しなければならない。
信号には3つの姿がある。電気、電波、光。それぞれに専用の「道」がある。
電気で走る——銅線の道
1つ目は 電気信号。LANケーブルの中を走る。
LANケーブルの中身は銅線だ。細い銅線を2本ずつ撚り合わせたペアが4組、計8本入っている。撚り合わせることで外部からの電磁波の干渉を打ち消し、信号を安定させる構造(ツイストペア)になっている。
データの0と1は、銅線の中で 電圧の変化 に変わる。電圧の高低や変化のタイミングが、0と1を表す。
LANケーブルには Cat5e や Cat6 という規格がある。数字が大きいほど速い。Cat5eは1Gbps、Cat6は1Gbps(Cat6Aで10Gbps)に対応する。ただし、どの規格も 最大100m という距離の制限がある。100mを超えると電気信号が弱くなり、0と1の区別が届かなくなる。
銅線の道は安定していて、安価で、扱いやすい。そのかわり距離に限界がある。
WiFiの2つの周波数帯—2.4GHzと5GHzの使い分け
2つ目は 電波。WiFiで飛ぶ。
WiFiは、データの0と1を 電波の波形の変化 に載せて空中に飛ばす。ケーブルの制約から離れ、自由に動ける。
WiFiには主に2つの周波数帯がある。
2.4GHz帯 は壁などの障害物を回り込みやすい。しかし、電子レンジやBluetoothなど他の機器も使う帯域のため、電波の干渉が起きやすい。
5GHz帯 は2.4GHz帯より速く、干渉も少ない。一方で遮蔽物に弱く、壁を隔てた別の部屋へ移動すると急に電波が減衰して遅くなる。
空中を飛ぶ電波は便利だが、壁による遮蔽、距離による減衰、他の機器との干渉といった物理的な影響を常に受けている。
光ファイバーのガラス全反射—海底ケーブルほどの長距離に対応
3つ目は 光。光ファイバーの中を走る。
光ファイバーの正体は、髪の毛ほどの太さのガラスの管だ。このガラスの中をレーザー光が 全反射 しながら進む。管の壁に当たった光が外へ抜けずに跳ね返り続け、先へ先へと進んでいく。
光は電気信号よりも圧倒的に速く、長距離でも減衰しにくい。前回の地図で見た「世界に600本以上、総延長が地球37周分」の海底ケーブルも、中身はこのガラスの管の束だ。数十キロから数百キロ離れた拠点間の接続、プロバイダのバックボーン回線、データセンター同士の通信、家庭向けの光回線(FTTH)まで広く使われる。
ただし、ガラスであるため物理的に折れると光が漏れて通信できなくなり、敷設にも銅線よりコストがかかる。
道がなければ何も始まらない
3つの道を並べてみる。
| 信号の姿 | 道 | 速さ | 距離 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|
| 電気 | 銅線(LANケーブル) | 1〜10 Gbps | 最大100m | 安定・安価 |
| 電波 | 空中(WiFi) | 数百Mbps〜数Gbps | 数十m | 自由・不安定 |
| 光 | ガラス(光ファイバー) | 10〜100 Gbps | 数十km〜 | 最速・長距離 |
どれも「データの0と1を、物理的な信号に変えて運ぶ」仕組みだ。
100m以内の安定した通信なら銅線のLANケーブルを使い、ケーブルの届かない場所や移動する端末には空中の電波を飛ばす。数十キロ以上離れた拠点や海を越える通信には、光ファイバーのガラス管を敷く。どの道を選ぶかは距離と環境で決まる。
しかし共通しているのは、道がなければデータは1ビットも動けない ということだ。前回の地図で見た7つの停車駅の間も、必ずこの3種類の道のどれかで結ばれている。
複数のPCはどうやって区別して届けるのか
データが信号に変わって道を走る——物理層(L1)の世界が見えた。
しかし、ケーブルや電波に乗って道を走っただけでは、データが「相手に届いた」とは言えない。
同じネットワークに複数のPCが繋がっているとき、その信号は誰宛なのか。どうやって正しい相手を判別するのか。
次は、届け先の世界 を見てみよう。