地図のここ
前回、同じネットワーク内で届け先を決めるデータリンク層の世界を見た。名前(MACアドレス)を書いて受付(スイッチ)に渡す、社内便の仕組みだ。
今回は、色がついた駅——ルーターにズームする。
社内便は同じフロアでしか届かない。けれど、別のフロアの営業部の人ともチャットでき、YouTubeも見られる。壁があるのに、どう届いているのか。
別の部屋の相手には、どうやって届くの?


社内便では届かない
会社のチャットで別のフロアの営業部の人とやりとりする。YouTubeを見る。世界の裏側のサーバーとも通信している。同じフロアの社内便では、壁の向こうへは届けられない。
別のフロアに届けるには 住所 が要る。住所を見て転送してくれる 郵便局 も要る。ネットワークでは、住所が IPアドレス、郵便局が ルーター だ。
住所——IPアドレス
MACアドレスは同じフロアで手渡すための「名前」だった。ここからは「住所」が主役になる。
10.1.50.10 ——IPアドレスはこんな形をしている。前半(10.1.50)がネットワークアドレス、後半(.10)がそのネットワーク内の機器の番号。郵便番号と番地の関係に近い。この区切りを決める設定が サブネットマスク だ。「ここまでがネットワークアドレス」という境界線を引く。PCはこの設定を見て、相手が同じネットワークにいるかどうかを判断する。10.1.50.0/24 のように末尾に /24 と書く表記も見かけるが、これは「前半24桁までがネットワークアドレス」という同じ意味の短縮表現だ。ここでは「区切りを決める設定がある」ところまで押さえれば十分。
住所で相手を指定して遠くに届ける仕組みを、ネットワーク層と呼ぶ。前回のデータリンク層の上に積み上がっている。
同じネットワーク(10.1.50.xx)の相手なら、MACアドレスとスイッチが届ける。違うネットワーク(10.1.30.xx)の相手は、郵便番号が違うので社内便では届かず、郵便局であるルーターへ向かわせる。PCはネットワークアドレスが同じか違うかを自動で判断し、同じならスイッチへ、違うなら出口へ送る。
この判断がすべての起点になる。同じネットワークか違うネットワークかを見分けるからこそ、次にすべき動きが決まる。
出口——デフォルトゲートウェイ
別のフロア宛てのパケットは、フロアの出口へ送られる。
この出口が デフォルトゲートウェイ だ。デフォルトゲートウェイは、ルーターのIPアドレスのこと。PCには「困ったらここに送れ」という出口の住所が設定されている。
家の近くにあるポストと同じだ。自分では届けられない宛先でも、ポストに入れれば郵便局が届けてくれる。ポストの場所を知らなければ、手紙は出せない。
この設定がなければ、同じフロアの相手には届くが、別のフロアには一切届かない。YouTubeも見られない。ネットワークに繋がっているのにインターネットが使えないとき、ゲートウェイの設定ミスが原因であることは多い。
道しるべ——ルーティング
ゲートウェイに届いたパケットは、ルーターが受け取る。ルーターは宛先IPアドレスを見て、どの方向に送ればいいかを判断する。この判断に使うのが ルーティングテーブル ——道しるべの表だ。
「10.1.30.0 のネットワークは、こっちの出口に直接つながっている」「10.1.50.0 のネットワークは、こっちに直接つながっている」「それ以外は、上位のルーターに渡す」——ルーターは宛先を見て、表を引いて、正しい方向にパケットを送り出す。この仕組みが ルーティング だ。
1台のルーターだけで完結しないこともある。郵便局が地域の集配局、県の中央局と中継するように、ルーターも次のルーターへとパケットを渡していく。YouTubeのサーバーに届くまでに、社内の出口ルーター、プロバイダの集配ルーター、国際回線を束ねる上位ルーターと、十数台規模のルーターを渡り歩くことも珍しくない。各ルーターは自分のルーティングテーブルだけを見て「次にどこへ渡すか」を決める。全体の道のりを知っている必要はない。
宛先のIPアドレスは最後まで変わらない。封筒に書いた宛名はそのままだ。中継のたびに書き換わるのは、今この区間で手渡す相手を示すMACアドレスだけだ。IPは最終宛先、MACは今渡す相手。役割が違うから、2つ必要になる。
届いたら、どうやって頼む?
前々回の物理層は「道」、前回のデータリンク層は「届け先」、今回のネットワーク層は「住所」。道の上を、名前を付けて、住所を書いて、ルーターが届ける。現実にはNAT(住所の書き換え)やファイアウォールなど、単純な郵便にはない仕掛けも途中に挟まるが、住所を見て正しい方向へ送り出す骨格はここまでのとおりだ。
別のビルにも、世界の裏側にも、住所とルーティングがあればデータは届く。しかし、「届いた」だけでは動画は再生されない。
YouTubeのサーバーにパケットが届いたとして、「動画をください」とどうやって要求するのか。次は、会話の世界 を見てみよう。