地図のここ
前回、別の部屋への届け方——ネットワーク層(住所とルーティングで遠くに届ける仕組み)の世界を見た。住所(IPアドレス)を書いて、郵便局(ルーター)に渡す。郵便。
今日は、色がついた駅——YouTubeのサーバーにズームする。
パケットは届いた。でも、届いただけでは動画は見えない。どうやって「動画をください」と頼むのか。ちゃんと届いたか、どう確認するのか。
届いた先で、どうやって会話してるの?

届いただけでは始まらない
パケットがYouTubeのサーバーに届いた。でも、サーバーの中ではいろいろなサービスが同時に動いている。ウェブページを返す係、メールを受け取る係、ファイルを渡す係——それぞれ別の担当だ。
届いた荷物に「○○課宛」と書いてなかったら、受付は困る。どこに回せばいいかわからない。
この「○○課」に当たるのが ポート番号 だ。
ウェブページなら80番、メールなら25番。サーバーの中で、どのサービスに話しかけるかを番号で指定する。会社の代表電話にかけて「内線○○番をお願いします」と言うのと同じだ。
あなたのPC側にもポート番号がある。サーバーから返事をもらうための番号だ。こちらは一時的に割り当てられる。「折り返しはこちらの内線にお願いします」——これで双方の内線番号が決まり、電話をかける準備が整った。
もしもし——繋がる約束
内線番号がわかった。次は、電話をかける。
でも、いきなり話し始めたりはしない。まず「繋がっていること」を確認する。この確認が 3ウェイハンドシェイク だ。
- あなたのPC → サーバー:「もしもし、繋がりますか?」(SYN)
- サーバー → あなたのPC:「はい、繋がります。そちらも聞こえますか?」(SYN+ACK)
- あなたのPC → サーバー:「聞こえます。では話しましょう」(ACK)
3回のやりとり。電話でいう「もしもし」「はい」「繋がりましたね」。
なぜ3回も確認するのか。ネットワークでは、途中でパケットが消えることがある。相手が応答しないかもしれない。昨日の古いメッセージが紛れ込むかもしれない。だから「お互いが今この瞬間に繋がっている」ことを、双方向で確認する必要がある。
この3回の確認を終えると、コネクション(接続)が確立する。回線が繋がった。ここからが本番の会話だ。
届いた?——確認の約束
電話が繋がった。データを送り始める。
でもネットワークでは、送ったものが途中で消えることがある。順番が入れ替わることもある。電話の通話品質が悪くて、相手の声が途切れるようなものだ。
この問題を、番号 と 確認 で解決する。
送る側は、データに番号を振る。「1ページ目」「2ページ目」「3ページ目」——受け取る側は、届いたら番号を確認して「3ページ目まで受け取りました」と返事する。
もし「2ページ目」が届かなかったら? 受け取る側は「1ページ目まで受け取りました」としか返事しない。送った側は、2ページ目の確認がいつまでも来ないことに気づいて、もう一度送る。
これが 再送 だ。確認の返事が返ってこないデータは、もう一度送り直す。届くまで。
この仕組みのおかげで、途中でデータが消えても、順番が入れ替わっても、最終的にはすべてのデータが正しい順番で届く。「聞こえませんでした、もう一度お願いします」——電話で当たり前にやっていることを、自動的にやっているのだ。
失礼します——切る約束
会話が終わったら、電話を切る。ここにも約束がある。いきなりガチャ切りはしない。
- あなたのPC:「こちらからは以上です」(FIN)
- サーバー:「了解しました。こちらも以上です」(FIN+ACK)
- あなたのPC:「確認しました。失礼します」(ACK)
お互いが「もう送るものはない」と確認してから切る。片方が突然途切れても、もう片方は「返事が来ない」ことで異常に気づける。
電話で話せる世界
会話の約束が見えた。
届いたパケットがどのサービス宛かわからない。だから ポート番号(内線番号)がある。いきなり話し始めると混乱する。だから 3ウェイハンドシェイク(もしもし→はい→繋がりました)がある。途中でデータが消えるかもしれない。だから 番号と確認と再送(届いた?→届いた / 来ない→もう一度)がある。終わったら丁寧に切る。だから FIN(以上です→了解→失礼します)がある。
全部「電話の会話」の約束だ。内線を選んで、繋がりを確認して、聞こえたか確認しながら話して、終わったら切る。
この約束を取り決めているのが TCP(Transmission Control Protocol)だ。直訳すると「伝送制御プロトコル」——データの伝送を確実にするための約束ごと。名前のとおりだ。
前々々回の物理層は「道」。前々回のデータリンク層は「届け先」。前回のネットワーク層は「住所」。今回のトランスポート層は「会話の約束」。道の上を、名前を付けて、住所を書いて、届いた先で確実に会話する。層がまた一段、積み重なった。
次の世界へ
電話の回線は繋がった。確実に会話できる。
でも、まだ足りないものがある。
そもそも、電話番号をどうやって調べたのか。会話を誰かに盗み聞きされていないか。「動画をください」と頼むとき、どんな言葉で頼むのか。
次は、名前を調べて、安全に頼む世界 を見てみよう。