全7駅をハイライトした地図を見る
4つの世界を見てきた。信号、届け先、住所、会話。それぞれ別の仕組みに見えたが、実はバラバラに動いているわけではない。
今日は、色がついた駅すべてを見る。
4つの世界はどう積み重なってるの?


4つの世界
信号の世界——データが電気・電波・光になって道を走る。道路。WiFiもLANケーブルも、信号を物理的に運ぶ。
届け先の世界——同じ部屋の中で、名前(MACアドレス)を書いて受付(スイッチ)に渡す。社内便。スイッチはMACアドレス表で、どのポートに届けるかを知っている。
住所の世界——別の部屋に届けるために、住所(IPアドレス)を書いて郵便局(ルーター)に頼む。郵便。ルーターはルーティングテーブルで、次にどこへ送るかを決める。
会話の世界——届いた先で、電話を繋ぎ、用件を伝える。内線番号を選んで繋がりを確認し、届いたか確かめながら話す(TCP)。電話番号を調べ、相手が本物か確認し、安全な回線で用件を伝える(DNS・TLS・HTTP)。電話の会話。
4つの世界は、それぞれ別の仕組みに見える。けれど、バラバラに動いているわけではない。
下の層が上を支える依存関係
道路がなければ、社内便は走れない。社内便が届かなければ、郵便局に手紙を持ち込めない。そして郵便で届いていなければ、そもそも電話をかける相手がどこにいるかもわからない。
下の世界が、上の世界を支えている。
YouTubeの動画を見るとき、ブラウザは「この動画をください」と用件を伝える(会話の世界)。その用件は、住所(IPアドレス)がなければサーバーに届かない(住所の世界)。住所を書いたパケットは、同じネットワーク内でスイッチに届けてもらわないと外に出られない(届け先の世界)。スイッチに届けてもらうには、信号として線の上を走る必要がある(信号の世界)。
この関係を整理したのが、レイヤーモデル——層の地図——だ。
TCP/IPモデル——実際に使われている地図
インターネットで実際に使われている地図が、TCP/IPモデル だ。4つの層でできている。
| 層 | 名前 | 見てきた世界 | 日常のイメージ |
|---|---|---|---|
| 4 | アプリケーション層 | 会話の世界(用件を伝える) | 電話で話す内容 |
| 3 | トランスポート層 | 会話の世界(接続の制御) | 電話を繋ぐ仕組み |
| 2 | インターネット層 | 住所の世界 | 郵便 |
| 1 | リンク層 | 信号の世界 + 届け先の世界 | 道路 + 社内便 |
4つの世界が、そのままこの地図に収まる。
「会話の世界」は2つの層に分かれる。接続を維持し、届いたか確認しながら送る仕組み(TCP)がトランスポート層。名前を調べて安全に用件を伝える仕組み(DNS・TLS・HTTP)がアプリケーション層。繋がらなければ話せないし、話す内容がなければ繋ぐ意味がない。どちらも会話に関するものだが、役割が違う。
「信号の世界」と「届け先の世界」は、まとめてリンク層と呼ばれる。道を走ることと、同じ部屋で届けること。どちらもすぐ隣とのやりとりだから、1つの層にまとまる。
OSIモデル——もう少し細かい地図
TCP/IPモデルとは別に、もう1枚有名な地図がある。OSI参照モデル。こちらは7つの層でできている。
| OSI層 | 名称 | TCP/IP対応 | 見てきた世界 |
|---|---|---|---|
| 7 | アプリケーション層 | アプリケーション層 | 会話の世界 |
| 6 | プレゼンテーション層 | アプリケーション層 | — |
| 5 | セッション層 | アプリケーション層 | — |
| 4 | トランスポート層 | トランスポート層 | 会話の世界 |
| 3 | ネットワーク層 | インターネット層 | 住所の世界 |
| 2 | データリンク層 | リンク層 | 届け先の世界 |
| 1 | 物理層 | リンク層 | 信号の世界 |
TCP/IPモデルの4層を、もう少し細かく分けたものだ。
L6(プレゼンテーション層)やL5(セッション層)は名前こそあるが、現実のプロトコルではアプリケーション層とまとめて扱われることが多い。名前だけ知っておけば十分だ。
物理層(信号)、データリンク層(届け先)、ネットワーク層(住所)、トランスポート層(接続の制御)、アプリケーション層(名前を調べて安全に用件を伝える)。OSIモデルの7層のうち、実際に動いている中身をあなたはもう知っている。
トラブルシューティングで層の地図を使う
覚えなくていい。
OSIモデルもTCP/IPモデルも、暗記するためのものではない。体験を整理するための地図だ。
TCP/IPモデルを定義したRFC 1122にも「厳密なレイヤー分けは不完全なモデルだ」とある。現実はこの通りにきれいに分かれないと、作った人たち自身が認めている。
ネットワークが繋がらないとき。「ケーブルは刺さっているか(物理層)」「スイッチは認識しているか(データリンク層)」「IPアドレスは正しいか(ネットワーク層)」「サービスは応答しているか(アプリケーション層)」——下の層から順に確認していく。現場でよく使われるトラブルシューティングの手順だ。
もしIPアドレスの設定が間違っていたら、その上の層でどんなに正しい設定をしても通信は通らない。下の層が壊れていたら、上の層はどうしようもない。だから下から順に調べる。層という地図があれば、どこで止まっているかを絞り込める。闇雲に全部を調べる必要はない。
誰かが「L2の問題だな」と言ったとき、それは届け先の世界——MACアドレスやスイッチの話だ。「L3を見てみよう」と言われたら、住所の世界——IPアドレスやルーティングの話だ。言葉が通じるだけで、問題解決のスタート地点が変わる。
必要なときに開いて、いまどこにいるかを確認するために、この地図はある。
旅の終わり
再生ボタンを押すと、データが走り出す。
7つの停車駅を通って、YouTubeのサーバーまで。そして同じ道を戻ってきて、画面に映る。その横の旅の中で、4つの世界が縦に重なって動いている。
信号が道を走り、名前で届けて、住所で遠くへ送り、接続を制御して用件を伝える。
信号・届け先・住所・会話——4つの世界に、OSIモデルとTCP/IPモデルが正式な名前をつけた。中身は、あなたがもう知っている。
各層をもっと深く知りたくなったとき、この地図から迷わず進める。ネットワークのトラブルに出会ったときも、「どの層の問題か」という問いが、解決への最初の一歩になる。